Incubation Room 培養室のご案内
培養士の1日
胚の観察
現在当院では22台のタイムラプスインキュベーター(卵の状態をリアルタイムで観察できる装置)があり、夜間の成長具合も朝モニターで観察することができます。出勤した培養士はまずこの装置で前日の受精や分割状況の確認を行います。正常受精しているか、移植可能な分割をしているか、凍結できる大きさまで成長しているか…患者様の個々のプランに沿って医師に卵の状態を報告します。
採卵
顕微鏡を使って、採取した卵胞液から卵子を探します。採卵と同時に卵子を探す必要があり、迅速な手技と観察力が求められる作業です。採れた卵子は、あらかじめ用意してある培養液入りのシャーレに移して培養室へ移動します。
このシャーレはバーコードによる個人識別が可能で、取り違い防止に万全を期しております。
成熟確認
回収した卵子が成熟しているか、状態が悪くないかを倍率の高い顕微鏡で一つ一つ確認します。成熟度合いや卵子の状態によって最適な受精方法が変わるため、より受精率を高めるために必要な作業となります。
精子調整
精液を均一になるよう攪拌し、SMASという装置で濃度や運動率などのデータを測定します。その後遠心分離を行い、雑菌を除去するとともに良好精子を回収します。この時の精子の状態によっても最適な受精方法が変わってきます。
胚の凍結
採卵した周期にすぐに移植しない胚は、一定期間培養後凍結して保存しておきます。胚を専用の凍結液に浸し、個別の透明チップに乗せ液体窒素につけて凍結します。このガラス化保存法という技術で凍結された胚は融解するまで劣化はせず、何年間もの長期保存が可能です。胚はバーコード管理され、融解の時まで専用のタンクで保存されます。
融解
当日、ホルモン値の測定と診察を経て凍結胚移植が決定されると、医師が選択した胚の融解を培養士が行います。指示通りの患者様の正しい胚であることを培養士二人で確認し、胚のバーコードも読み取り何重ものチェックで取り違いを確実に防ぎます。専用キットにより融解を行った胚は移植時までインキュベーターで保管されます。場合によって胚の透明帯(卵の殻)を除去するレーザーアシステッドハッチングを行うこともあります。
通常の体外受精(C-IVF・ふりかけ法)
シャーレ内の卵子に一定量の精子をふりかけ、自然に受精するのを待つ方法です。卵子が成熟していて、精液検査結果が正常で十分な良好精子が回収できた場合などに対象となります。一定時間後のチェックにより受精の兆候が見られない場合は、追加で顕微授精を行うこともあります。(レスキューICSI)
顕微授精(ICSI)
卵子1個につき1匹の精子を、太さ0.01mm以下の極細の針で慎重に注入します。過去にふりかけ法で受精率が低かった、十分な良好精子が回収できなかった、卵子の成熟に時間がかかった場合などに行います。精子を選ぶ眼力や正確で繊細な操作技術が必要となり、培養士の腕の見せどころと言っても過言ではありません。
移植
移植の直前にオペ室で胚の状態を最終チェックします。カテーテルという細長い移植用の管で胚を吸い上げ、スタンバイしている医師が移植を行います。終了後はカテーテル内に胚が残っていないか最終チェックして、確実に移植できたことを確認します。
翌日の準備
翌日の採卵や移植予定の患者様の人数に合わせて、様々な培養液を前日から準備しておきます。調整したての培養液はPHや温度などが安定しておらず、すぐに卵に使用することはできないため、あらかじめインキュベーターに入れて液の状態を安定させます。卵に少しでも負荷をかけないために、前日の仕込みはとても重要です。
掃除
卵の培養には清潔な環境が必須です。クリーンベンチやエアシャワーといった設備の導入の他、毎日時間を設けて床や机上の掃除や培養器具のメンテナンスなども欠かしません。患者様の卵にとって日々ベストな環境を保てるよう心がけています。
ミーティング―リスクマネジメントの観点から
一日の終わりには必ずミーティングを行います。当日に起こったことや収集されたデータなどを皆で共有し、今後の業務向上に役立てます。また申し送り事項の把握や、翌日採卵予定の患者様一人一人に合った受精方法を考察します。培養室全体で多くのデータを共有することで、様々なケースに対応できる技術力、判断力を培えるのです。
データ処理―クオリティーコントロール
当院で収集された患者様のデータを集計することで、新たな知見が得られることがあります。また受精率を高めるために最適な精子の量や顕微授精までの時間、より移植に適した胚の選び方…正しい答えがあるわけではありません。ですが私たちは患者様の妊娠というゴールに少しでも近づけるよう、日々アンテナを張って業務に臨んでいます。データ処理、整理は大切な私たちの仕事の一つです。