Our Treatment 不妊治療の基礎知識

不妊原因

妊娠は良い卵子と良い精子の出会いの結果です

卵子と精子が出会い、受精・着床するには多くの条件があります。不妊の原因は多岐にわたりますが約半数は原因不明です。
WHO(世界保健機構)の報告によれば、不妊の原因の割合は男女半々です。カップルで検査・治療が必要です。

女性側の不妊原因/男性側の不妊原因

出典:主婦の友社「KLCメソッド入門 心と体にやさしい不妊治療」加藤恵一 著

原因不明とは

不妊の検査には、超音波検査・子宮卵管造影検査・採血検査など、さまざまなものがあります。そして、原因不明不妊の女性は、「異常なし」という結果がでます。「異常がないのに妊娠しない」ということは、現在の医学では発見できない原因が隠れているということなのです。「原因不明不妊(機能性不妊)」とは、現在の不妊検査・治療では解明できない原因があり、妊娠しづらい状態をさします。

女性側の不妊原因

女性の方へ当院からのメッセージ

妊娠のメカニズムは複雑で、一般的な不妊検査だけでは原因を解明することが困難なことも多いです。いつかは妊娠出来るはずと考えてご自身でタイミングをはかったりと、積極的に取り組む行動は素晴らしいことです。なかなか妊娠しないと、あせりや仕事・家庭との両立、周囲の声が気になるなどつらい気持ちになるのは当然です。妊娠のチャンスを逃さないように、次の段階として体外受精・顕微授精と医療の手を借りることをお考え下さい。

卵管因子

卵子は自分で動けません。卵管の内側には細い毛のような線毛があり、波打つことで卵が卵巣から子宮に運ばれます。また、精子も膣・子宮頸管・子宮をさかのぼり、卵子のいる卵管に入ります。自然に妊娠するには、卵子と精子の通り道になる卵管がちゃんと機能していることが絶対条件です。もしも卵管が機能していなければ、精子と卵子は出会うことが出来ず、受精することが出来ません。原因は多岐にわたりますが、両側の卵管閉塞を認めた場合にはIVFが第一選択になります。

原因

クラミジア感染症

クラミジア・トラコマチスという細菌によっておこる性感染症の一つです。感染すると子宮頸管や卵管に炎症を起こしたり、卵管が癒着して不妊の原因になることもあります。自覚症状がほとんどないため感染しても気がつかないこともあります。

子宮内膜症

子宮内膜の組織が子宮以外の場所で増殖する病気です。原因は不明ですが、不妊症と関連が強い病気です。卵巣に子宮内膜症が原因と考えられる嚢腫(卵巣嚢腫)が見つかる事があります。子宮内膜症になると、骨盤の中に癒着を起こしたり、炎症物質が骨盤に蔓延することで妊娠しにくい状態になることがあります。月経のたびに徐々に悪化していくため、月経がある年齢での完治は難しく、女性のライフステージに合わせた対応がもとめられます。不妊患者さんの15~25%に子宮内膜症があると言われています。

子宮外妊娠が発生する部分

卵管水腫

卵管の閉塞・狭窄によって卵管の中に液体(水腫液)がたまり、卵管がはれている状態です。卵子と精子は卵管内で受精しますが、卵管水腫がある状態では受精の場として不適です。また体外受精をしても、受精卵(胚)を子宮に戻したあとに、水腫の液体が卵管から子宮内部に流れ出して受精卵を押し流し、着床が妨げられ妊娠率は下がります。自覚症状として、排卵期から黄体期にかけて水っぽいおりもの(水様性帯下)の増加があります。クラミジア抗体検査で陽性だった方は注意が必要です。

卵管水腫について

出典:主婦の友社「KLCメソッド入門 心と体にやさしい不妊治療」加藤恵一 著

卵管Pick up障害

卵巣から飛び出して排卵した卵子は卵管の先端でキャッチされて卵管に取り込まれます。これを「ピックアップ」と言います。この機能が正常に働くことで、卵子と精子は出会うことができます。ピックアップ機能がちゃんと働いているかどうかを調べる検査は今のところありません。

[卵管Pick up障害] 問題のない人

子宮外妊娠

妊娠したにもかかわらず、子宮の外に受精卵が着床した状態です。子宮外妊娠は発見が遅れると危険な状態に陥ることがあります。例えば卵管に着床した場合は、卵管破裂によって腹腔内出血が起こったり、最悪の場合は命にかかわることもあります。子宮外妊娠の既往がある方は、卵管の機能不全が考えられ、再度妊娠しても同じことが起こる可能性が高く、体外受精をすすめられることがあります。

子宮外妊娠が発生する部位

排卵因子

月経不順などの場合、排卵していない事があります。

原因

早発卵巣不全(早発閉経)

40歳未満で卵巣機能が低下し、無月経(月経が3か月以上ない)となった状態です。多くは原因不明ですが、卵巣の手術・抗がん剤治療・放射線治療、染色体や遺伝子の異常などの原因が考えられています。

多のう胞性卵巣症候群(PCOS)

卵胞が発育するのに時間がかかり、なかなか排卵しません。卵巣内にたくさんの小卵胞が存在します。症状には ①月経周期が35日~40日と長い ②月経が不規則 ③にきびが多い ④やや毛深い ⑤肥満 などがあります。

多のう胞性卵巣症候群(PCOS) エコー写真

ホルモンの分泌異常

ホルモンの分泌異常 女性のイラスト
①甲状腺の病気

甲状腺から分泌されるホルモンの異常により月経不順になったり、流産率が増加することが知られています。妊娠・出産に向けては、一般的に内科で正常とされている値よりも厳格なコントロールが必要です。

②高プロラクチン血症

脳下垂体から分泌されるプロラクチンは出産後の乳汁分泌に関わるホルモンです。プロラクチンが多いと月経不順や無月経となり不妊の原因になることがあります。薬剤(抗精神病薬・吐き気止め・胃薬・抗アレルギー薬などの一部)の副作用や腫瘍が原因となる事があります。

③黄体機能不全

子宮内膜は卵巣から出るプロゲステロン(黄体ホルモン)によって変化し、受精卵が着床しやすい状態にします。プロゲステロンが不足すると着床が上手くいきません。

黄体機能不全 解説イラスト

極度の肥満や痩せ・ストレス

ホルモンバランスを崩し、月経不順になる事があります。
BMI:肥満か痩せかを判断するための指標
BMI=体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)

肥満の目安となるBMI(体格指数)は、性別にかかわらず、
BMI18.5以上25未満が「普通体重」、25以上が「肥満」と判定されています。

BMI値 肥満度分類の判定
18.5未満 低体重
18.5〜25未満 普通体重
25〜30未満 肥満(1度)
30〜35未満 肥満(2度)
35〜40未満 肥満(3度)
40以上 肥満(4度)

参照:https://bmi.ecnos.com/

※BMI≧27やBMI≦17では排卵障害が起こることが知られています。

子宮因子

「子宮内膜は受精卵のベッド」と例えられるように、子宮内膜の環境は妊娠の一つの条件でもあります。

原因

子宮筋腫

子宮にできる良性の腫瘍です。粘膜下筋腫や子宮内腔を変形してしまうような筋層内筋腫など場所や大きさによっては、受精卵の着床を妨げて不妊症の原因になる事があります。30才以上の女性の20~30%にあると言われています。

筋腫が発生する部位
子宮内膜ポリープ

子宮内膜ポリープ

子宮の内腔にできものがある状態です。ポリープの位置や大きさにより、受精卵の着床を妨げる事があります。

子宮腔内癒着症(アッシャーマン症候群)

子宮内膜が炎症を起こし、癒着した状態です。帝王切開や妊娠中絶・その他の手術や感染などが原因です。

子宮腺筋症

子宮腺筋症

子宮内膜が、子宮の筋層に入り増殖します。着床を妨げる原因となります。
生理の時の激しい痛みや、出血が多いなど症状があります。

子宮奇形

形態異常により、不妊症や不育症の原因になります。双角子宮や中隔子宮などがあります。

子宮奇形 一覧

慢性子宮内膜炎

細菌感染や様々な要因により子宮内膜に持続性の炎症が起こっている状態です。

頸管因子

子宮の入り口である子宮頸管では、排卵の3~4日前から粘液の分泌が増加します。月経周期が正常な女性であれば、自身で頸管粘液の増加を感じられると思います。粘液の分泌が少なかったり、精子の侵入に適していなかったりすると、妊娠が起こりにくくなります。

原因

頸管粘液分泌不全

頸管粘液が排卵期に十分出ていないと、精子が子宮内に入りにくくなります。

免疫因子

原因

抗精子抗体

精子を外敵とみなし、精子の動きを妨げる抗体のことです。男性・女性どちらにも存在する可能性があります。男性が持っていた場合、精子の運動を妨げ男性不妊の原因となります。女性が持っていた場合は、膣内に射精された精子の動きを止めてしまうため受精できなくなります。血液検査で診断できます。

配偶子因子

原因

卵子の質の低下(加齢など)

染色体異常

受精卵異常は主に染色体数異常が原因とされています。

男性側の不妊原因

男性の方への当院からのメッセージ

精子の数や運動率が低い時、薬物療法が効を奏するケースや精索静脈瘤が見つかった場合には手術が有効なケースもあります。ただし、それは妻の年齢が比較的若く、妊娠・出産までに時間的余裕がある場合で、男性側の治療が必ずしも成功するとは限りません。女性は年齢を重ねるほど妊娠しにくくなるので、男性側の治療の成果を待つよりも、体外受精・顕微授精に進む方が早期の妊娠には得策といえます。

造精機能障害精子輸送路の閉塞勃起・射精障害の原因があります。
精子は精巣で作られ、精巣上体に蓄えられます。さらに精管を通り、精嚢の分泌物とまざり、尿道から排出されます。精子がつくられる過程に問題があると、精子の数が少ない、運動率が悪いといった問題があります。多くは自覚症状がないので、早めに検査をお受けください。

精液所見からの分類

精液検査の所見は、WHOガイドラインにて定められた基準で評価します。

基準値《WHOガイドライン2021》

精液量 1.4ml以上
濃度 16×106/ml以上
運動率 42%以上
正常形態精子率 4%以上

※精子の状態は変動します。

射精の仕組み

造精機能障害

精子が十分に作られないと、受精しにくくなります。以前では妊娠が難しかったデータであっても、精巣内に1つでも精子が見つかれば、顕微授精によって卵子に精子を注入し、受精させる事ができるようになりました。

精子ができるまで
原因

精索静脈瘤

睾丸から腎臓の静脈へと向かっている精索静脈がこぶ状になった状態で、静脈の血液が逆流してしまいます。多くは無症状です。思春期以降に発症することが多いですが、小児にも見られます。お腹のなかで暖められた血液が精巣に逆流して、精巣の温度が高くなります。精子は熱に弱く、精巣の温度が高くなると、精子がうまく作られなくなります。この状態が続くと、精子の数や運動率が低下します。進行性の病気で、二人目不妊の原因となることがあります。

精索静脈瘤の仕組み

精巣摘出後

思春期のおたふく風邪による精巣炎、小児期の精巣捻転

前立腺炎

クラインフィルター症候群またはその他の染色体異常

抗がん剤治療・放射線治療後

精子輸送路の閉塞

精巣から精管を通り精子が放出されます。その経路が狭窄・閉塞していると精液中の精子の数が十分でない事があります。

原因

前立腺炎

精巣上体炎

性感染症(STD)などによって起こります。

子供の頃の、鼠径ヘルニア手術

先天性精管形成不全

勃起・射精障害

原因

インポテンツ(勃起障害、ED)

ストレスや糖尿病・高血圧・高脂血症・動脈硬化・加齢・手術後の後遺症・薬剤の一部によって起こります。

逆行性射精

射精時に精子が尿道から放出されずに、逆方向の膀胱内に流れ込んでしまう射精障害のことです。射精時に精液量が少ない「不完全逆行性射精」と完全に精液が放出されない「完全逆行性射精」があります。性交渉しても、腟に射精出来ないので、妊娠の可能性が低くなります。射精後に排尿してもらい検査すると、尿のなかに精子が確認できます。自然妊娠は難しくなりますが、この尿の中の精子を使用し人工授精や体外受精で妊娠することが出来ます。原因は生活習慣病(糖尿病など)・神経障害・手術後の後遺症・薬剤の副作用などが考えられます。

腟内射精障害

喫煙や過度の飲酒